SQUINT

COLUMN #2


あなたにとって眼鏡とは?
そんな問いかけに対して、筆者の主観のみで綴ってもらう本企画。
第2回目は、「白山眼鏡店」の愛用者としても知られる安齋 肇さんが登場です。

photo: Kengo Shimizu

めがねめがねめがね

 今日も、ね。めがねめがねめがね! ちょっとデコボコのイントネーションで。めがねめがねめがね! 手のひらを真っ直ぐ平らに、こぉ、手首は気持ちいいくらいにキュッと反らして。両手をね、交互に円を描くようにぐるぐるとね。めがねめがねめがね! あくまで空中を撫でるように、ちょいと忙しなく空気を掻き混ぜながら、あっちでオロオロこっちでウロウロ。めがねめがねめがね! 足はカックンカックンとガニ股で、膝を、そお、マリオネットみたいに、カックンカックン外側に上げて。めがねめがねめがね!
いやいやふざけているワケではないですよ。ふざけて見せているワケです。真剣ですよ。何しろめがねが見つからないんだから大変。ふざけているようにでもね、見せてなけりゃ。あれえ、またやってる、また今日もやってるわ、って思われますから。どぉしたのお? って家人に声でもかけられりゃ、そりゃ事態は一気にシリアス。日頃のツケがね、人生が問われますから。ここは陽気に。軽くご陽気に。めがねめがねめがね! って。

 しっかし、見つからんにゃあ。さっきまでどこでどぉしてたんだっけ。どこでナニしてたんだっけ。そもそもめがねはしてたのか。そりゃ、してなきゃいつもの場所にあるもんね。
いつもにないんだから。いつもに。そぉ、どこで外したかでしょ。洗面台か、その界隈か。ひょいと置いてしまうんだな、これが意識せず外してひょいと置いてしまうんだな。顔を洗った時か。ティシャツ着替えた時か。ってこたぁ、シャワーの前だな、ベッドの脇か。いやいやさっき探した、無かった。シャワーの後か。めがねしてシャワーは浴びんだろ。ってこたぁ、バスタブの淵か。あんなところに置いちゃいけませんよ。落ちたら大変だ。置くわけないだろ。いやいや、置くわけないってところに置いたりすんだよ、ひょいっと。無いよ。あるわけないだろ、そこまでバカじゃないだろ。ってかバカじゃん、さっきから。めがねめがねってもぉやってる場合か。嗚呼、嗚呼、嗚呼、もぉ出掛けなきゃ。
遅刻だ。遅刻。嗚呼、嗚呼出て来い、めがねぇ~ッ!
 めがねが好きだ。めがねって歌を作ったくらい、めがねが好きだ。乱視が出会いのキッカケだった。月が何個にも見えた。白山眼鏡に飛び込んだのは、ジョン・レノンと同じにしたかったからだ。「ジョンのめがねをください」って、勇気のいるもんだった。一番近い型を掛けた、似合わなかった。ジョンの顔は小さかった。『Mother 』の鐘が鳴った。
 似合うってなんだろう。そこから、めがね探しの旅が始まった。沢山のめがねがこの鼻の上を通り過ぎ、白山眼鏡との40年近い旅は続いた。運命は瞬間やって来た。
初めて”おススメ”を掛けてみた瞬間、その丸いめがねは美しかった。一目惚れってやつだ。遠近両用の丸いめがねをアナログ盤のカタチの丸いめがね拭きに包み、青いバンダナ模様のケースに入れ連れて帰った。なんて美しいんだろう。掛ける悦び。似合うって、好きってことなんだ。
好きって気持ちが強けれりゃ、他人の目なんて目に入らない。
 同じ丸いめがねを作業用と素通しで揃えた。めがねめがねめがね。みっつのめがねは、そっくりたまらなくみんな美しい。掛けてみるまでどれがどれか分からないのが、ま、悩ましいところだけど。
どぉやら、ぼくはめがねを掛けてるひとも好きみたいだ。おふくろがめがねを掛けてたからか、生まれながらのめがね好き。惹かれた家人もめがねのひとだった。仕事も友達も先輩も、めがねのひとだらけ、サングラスのひともいる。
 
今日も、めがねめがねと探している。横山やすしのように。そしてめがねを手に入れぼくは威勢よく叫ぶ、怒るでしかし! いやいや怒られてばかりです。

PROFILE

安齋 肇

イラストレーター。1953年東京都生まれ。数多くのキャラクターデザインを手掛けるほか、デザインや映像制作など幅広く行う。ユニコーンや奥田民生ツアーパンフレットのアートディレクション、宮藤官九郎原作の絵本「WASIMO」シリーズや作品集「work anzai」、「drawanzai」、映画『変態だ』監督など。テレビ朝日系「タモリ倶楽部」空耳アワーに出演中。
Eテレで放送中のアニメ「わしも」ではキャラクターデザインと声の出演も。各地での展覧会やイベントも積極的に行う。
1958年京都府生まれ。イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなど幅広く活躍。"マイブーム""ゆるキャラ"などの命名者としても知られる。