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そのモノづくりは“、こだわり”という言葉だけで安易にくくることはできない。ブランド設立から10年を数える「TIMEWORN CLOTHING」と「白山眼鏡店」を繋ぐモノ。その裏側にある想いを訊いた。

photo: Keita Goto(Person), Shimpo Kimura(Still)
HOST:MASAMI SHIRAYAMA
GUEST:KEI HEMMI

―最初におふたりの出会いについて聞かせてください。
白山將視(以下白山): 確か2004年の暮れ、年の瀬でしたね。
邊見 馨(以下邊見): そうですね。大久保さん(スタイリストの大久保 篤志さん)と知り合って、「眼鏡つくりたいな」ってずっと話していて。そうしたら大久保さんが白山さんの所に連れてってくれてね。
白山: 最初、大久保さんから「すごく良い服をずっとつくってる若い人たちがいるんですよ。彼らが眼鏡をつくりたいって言ってるんですけど、白山さん、会うだけでも会ってやってくれませんか?」って言われたんですよ。

―白山さんはそのお話に乗り気じゃなかったんですか?
白山: 正直、あんまりね。その頃は自分の仕事も気分が乗っていない時期だったから、ちょっとどうしようかな……って(笑)。
いや、後で反省したんですよ!? 結果的にすごく素敵なものができたし、僕も勉強になったから。

―意外です(笑)。もっと満を持して始まったのかと……。
白山: 大久保さんから「彼らは白山のこと、わかってるんですよ」とは聞いていたんですけど、話を聞いてると本当に深く理解をしていてくれていてびっくりしたんです。邊見くんも西くん(「TENDERLOIN」のデザイナー、西浦 徹さん)も僕の自慢したいようなエピソードをちゃんと知ってくれてて、「ああいうところが良かったんですよ!」 って言ってくれたんです。それですっかり気持ちが動いちゃって。「もう、じゃあやろうよ! 」みたいな感じでした。
邊見: 自分が中学生ぐらいから“白山”っていう眼鏡屋があるのは知ってたんです。実際に見たらレンズカラーはすごく綺麗だし、フレームもオリジナリティがあって欲しいものがいっぱいあった。だから大久保さんから会わせてもらえるって聞いたとき、自分からしたら「嘘でしょ!? 」みたいな。でも、もし本当に会えたらすごく嬉しいなって。
白山: そう言ってもらえるとありがたいですね。
邊見: だから初めて白山さんのところに行くときには緊張してましたね。俺なんてこんな身なりだからさ、「不良が来た」って思われちゃうだろうな……って。
白山: 確かに怖かったけどね(笑)。でも話をしているとふたりとも本当にピュアなんですよ。ただ、僕はまったく「TENDERLOIN」って知らなかったんですよ。で、ずっと名前が覚えられなくて、ずっと「ミディアムレアさんって」とか「それで、ミディアムレアさんは……」って言い続けてて。 失礼な話ですよね(笑)
邊見: 言ってましたね(笑)。
白山: 2人とも内心、「困ったなぁ……」と思ってたと思うんですけど、3回目ぐらいのタイミングで「すいません、白山さん。僕ら“テンダーロイン”っていうんです。今までも部位で“サーロイン”とかはあったんですけど、焼き具合で間違えられたのは初めてです」って笑ってた。
邊見: 途中まで、「アレ……?」って感じでした(笑)。
白山: でも、その指摘の仕方も洒落てるなぁ、と思ったよ。それとコラボを進めていく中で、眼鏡の左右で微妙にニュアンスの違うサンプルを作ったんですけど、大体の人は左右の形の違いが掴めない、もしくは両方とも同じに見えてしまうみたいなんですけど、彼らは「自分たちはこっちが良いです! 」って見た瞬間にパッと答えてくれた。すごいなと思いました。作りたい物のイメージも明確でしたし、長年やってきたけど本当にそういう人たちは少ないですよ。
邊見: ものづくりをするときって、きっと伝えるのが一番難しくて。それなのに白山さんとは答えがすぐ出てた。「あ、もうバッチリです」って。それで意気投合できました。

2014年より発行の『TALES OF TOMORR OW』。アート性を追求したモダンなフォト、フォーカステーマにまつわる書き物、世界各地の仲間を被写体に行われるシューティングなど、「TIMEWORN CLOTHING 」のリアルな世界観を明確に伝えている。編集のみならず、企画、構成、撮影のすべてを自社でディレクションするこのマガジンは、かつて邊見氏が夢中になったZINEを彷彿とさせる。

―その後、邊見さんは2010年に「TIMEWORN CLOTHING」を立ち上げられたわけですが、 その頃の服に対する気持ちはどんな感じだったんでしょうか?
邊見: その頃、自分も40歳を迎えて服に対する意識も成熟してきて、大人な方向に気持ちが向いて来てたんですよね。
きちんとしたサイズでしっかり着てみたいと思うようになって。それまで自分は、着崩すこと自体を意識せずにいて……、と言うよりはそもそもそんなことにすら気づかずに生きてきたというか、それが当たり前のようになっていたんだと思うんですけど、きちんと着ることで新鮮さだったり、着れる服が増えていくなというのを感じてたんですよ。
好きなデニムや靴だったりと、自分のファンデーションが変わったわけではないんですよね。変化があったり変われたりすることって、あるようでなかなかないって言うか。
自分なりに素直に吸収できてることとして、無理なく楽しめたんですよね。
白山: いつからか邊見くんのパンツの腰がすっと上がっていて、シャツもインしていてね。
ちょうどその頃に「TIMEWORN CLOTHING」のファーストモデルのデニムをつくり始めているのを見てたんですけど、邊見くんはもちろん似合うんですよ。でも、「この格好、できる人いるのか!? 」って、ウチの奥さんと話してて。
邊見: 今、自分がやっているような着こなしとかは自分がやり始めたことだとは思っていないんですけど、昔から太いパンツが好きでそれを1サイズ、2サイズ上げて腰で穿いていたものを、ハイウエストにしたというより「太いパンツをジャストウェスト」にしただけなんですけどね。世の中的にはそれがすごいハイウェストに見えたのかもしれませんね(笑)。
白山: ちょうどデビュー当時の(ザ・)ビートルズのマッシュルームカットが、長髪だと言われたみたいにね。この’40sみたいなきっちりした着こなしが。今では街でも見かけるスタイルなんだ
けど、本当に早かったよね。今の気分に置き換えたクラシックなスタイルを根付かせた先駆者だと思ってる。

―着こなしの変化とともに「TIMEWORN CLOTHING」ではスーツなど、今までのカジュアルなものとは違うジャンルにも取り組んでいますよね?
邊見: そうですね。スーツに関してはちょっとずつ興味が湧いてきて、古いスーツを集めてみて、それを着たりしている内にワークウェアとドレスウェアの境界線がない時代のモノづくりとかを純粋に楽しめていたから、いつか形にしたいなと思っていたんですよね。
それで、社内でしっかりとスーツをつくれる体制もできていたから取り組み始めた感じです。ラペルが広くて、パンツが太くて、Vゾーンが狭くてネクタイをしっかり締めてっていう、’30s、40sのスタイル。髪の毛もグリーシーに決めて。
白山: ずっと邊見くんのつくってるものを見てるけど、テーラードっぽいものは以前からあったなと思うんです。例えばスポーツジャケットとか。
邊見: はい。大量生産になる前の古い服って、実際にテーラーでつくっていたカジュアルな服も多かったんだと思います。
白山: 贅沢な吊るしだったんだろうね。本当にあつらえみたいな感じだよね。

―ところで、もうひとつ「TIMEWORN CLOTHING」の興味深い動きとして『TALES OF TOMORROW』の発行があると思いますが、それはどんなきっかけで始まったんですか。
邊見: いろいろな雑誌とかで自分たちの服を取り上げてもらう面白さや声をかけてもらえるありがたさもあるけれど、それだけだと伝え方とか伝わり方に限界があるのかなって。だったら自分たちで出来ることをやってみよう、ということで始めました。
白山: なるほどね。
邊見: 昔から“ZINE”っていう、自分で描いた漫画とか絵とか、切り抜いた好きなものの写真をフォトコピーとかプリンターを使って刷り出して、穴空けたりホチキスで留めて本屋に配ったりとかするモノがあるんですよ。内容がすさまじくマニアックだったり、超くだらなかったりと熱狂的な連中がやってたD.I.Y.ですよね。
そういうカルチャーがあるみたいに、どうせだったら自分たちの洋服を自分たちで写真撮ってモデルも決めて、それをまとめて自分たちの店で配れたらいいのかなって。
白山: そうなんだね。雑誌には広告主がいたり、出版社側の意向とか色々と制約があるのは仕方のないことだけど、他人任せのPRはどうしても何か似通ったものになるし一筋縄で
はいかないよね。それにしてもこれを自分たちだけで製作するには相当なエネルギーを使ってるでしょう?
邊見: ただ単につくるだけではなくて、それをより良く見せてあげることも自分の役目だと思うんです。
オリジナルで提案したいとか、スタイルを貫くためには、自分たちで何かしないと不完全燃焼で終わってしまうから。「NO! NO!」って首だけ振ってるのも違うと思うので。
悩んで、考えまくって、“簡単にいかない”っていうジレンマと引き換えに貫いてるワガママな自分たちの主張が、きっと原動力になってるんですよね(笑) 。
白山: コマーシャルな部分がない分、ストレートに表現できているところは本当にいいよね。
『TALES OF TOMORROW』は号を重ねる度に内容が充実してきて、とても楽しみにしているからウチでも取り扱いさせてもらっているけど、他では「蔦屋書店」とかでも取り扱い始めたんだよね?
邊見: はい。「蔦屋書店」は代官山と銀座と六本松博多の大型3店舗と、「青山ブックセンター」、それと神保町の「マグニフ」で取り扱ってもらっています。
白山: 「蔦屋書店」はバイヤーのカラーも面白いし、「青山ブックセンター」は昔からファッション、アート系と密接したイベントをやっているよね。
神保町の「マグニフ」が新刊を取り扱うってところにも面白みがあるね。
邊見: とにかく自分たちで楽しみながらやっています。

―見えないところに言葉では言い表せない努力や葛藤があるんですね。
そんなおふたりが一緒につくられるメガネに関してもお話をお聞きしたいのですが。
邊見: 初めに制作したモデルは“BOSTON”でしたね。今でも定番展開していて、思い入れのあるモデルです。
白山:“ BOSTON”は細かなマイナーチェンジを繰り返したり、フレームのバリエーションとしてテンプルを2種類で展開してフレームカラーなんかも特注したし、かなり突き詰めたよね。
邊見: そうですね。その後に、初めてのメタルフレーム“DEFENDER”を制作したんですよね。
白山: このモデルもホッキ―エンドとケーブルとで2種類制作したし、レンズシェイプは一見すると同じようなんだけどボストンとウェリントンタイプがあって、「TIMEWORN CLOTHING」の作るミリタリーウェアとの相性は本当に良いよね。
その後はダブルバー、ドロップアイと制作したけど、そういう方向性も邊見くんらしくて面白い。
邊見: いつも白山さんには自分のつくる洋服に合わせたいメガネを形にしてもらっています。それで今の型数がゆっくりとできた感じですかね。

―今はコラボレーションで制作したフレームは何モデルぐらいあるんですか?
白山: 今までに6モデルを制作して、まもなく7モデル目が出来上がるところです。今度リリースされるモデルはセルロイド素材なんだけど、蝶番やダボ止め金具は一から型をおこしてつくったり、目一杯こだわったモデルだよね。
邊見: 時間もコストもすごくかかっちゃいましたよね。
白山: ふたりともクオリティを求めて突き詰めるタイプだから。
時間はかかるし、コスト面もどうしてもね。実際にサンプルをつくってみて良いのができたら、やっぱりどうしてもそっちを選んじゃうから( 笑)。
邊見: 最近ではふたりのモノづくりも熟練してきて。
白山: そうだね。“あ・うん”で出来るようになってきたから、良いよね。

―なるほど。「TIMEWORN CLOTHING」は東京、博多に続いて、昨年に大阪に店舗をオープンしましたが、ブランドやショップの規模を大きくしていこう、っていう考えは元々あったんですか?
邊見: 正直、初めはあんまり考えてはなかったんです。
でも、遠くから飛行機乗り継いで熱心に毎月通ってくれるお客さんもいるし、ウチではより多くの人とか、色んな体型の人に気持ちよく袖を通してほしいからサイズグレーディングも幅広くやっているんだけど、結果としてどうしてもつくり込んでる生地とか、仕様に対しては数(商品ロット)が足りないっていうストレスが最初からあったんですよね。その悩みとモノづくりのバランスが店を増やした純粋な理由かな。そのへんを上手にやりたいっていう。
白山: 確かに、良いモノづくりと提供する環境や循環は非常に大事なことだよね。
「売りたいからいっぱいつくる」のではなくて、「良いモノをつくりたいから、そのために必要な量を理解する」ことが大事だったりするんだよね。
ある程度のスケールがないと動いてもらえないわけだし、そのスケールを整えることが良いモノづくりをすることの条件だったりするよね。
邊見: はい。腕の良い職人や工場の人たちがある程度の数量でつくることに理解を示してくれても、作った数量を売る体制をそれなりに整えておかなければ、理想のモノづくりをお願いする事はできなくなると思っています。

―品質やイメージを保ちながらブランドを継続させていくことは簡単ではないですよね。
邊見: そうだね。可能なら品質を保ちながらも値段を下げる、そういうこともすごく大事。
イメージと言われると、卸をまったくやっていないわけではないけど、卸で売るっていうことに対してはワガママになっちゃってて……。
自分の世界観を自分たちでしっかり見せてたい、っていうところに今は行き着いてしまう。
それを言ったら、白山さんはそれの熟練者だから。
白山: 僕はワガママの熟練者だからね(笑)。
邊見:( 笑)。でも、それは良い意味でね。
自分なんかはまだまだだけど、白山さんはなかなかできないことを昔からやり続けてる。
そこにはいろんな痛みがあると思うんだけど、それを噛み締めながら黙ってやってるのには、リスペクトですよね。
白山: オツムが弱いだけだよ、多分(笑)。
邊見くんは今いくつなんだっけ?
邊見: 今年で50の年です。でも、まだまだですよ。
白山: 2004年に出会ってからの邊見くんの歳の重ね方が、僕にとっては本当に印象深いんだよね。
僕はもうジジイになっちゃったなぁ。
邊見: いやいや、白山さんほどバイタリティがある人、なかなかいないですよ。
いつ会ってもめちゃくちゃ元気だし面白い話を聞かせてくれて。本当にいい兄貴です。
白山: まぁ、言うことだけは邊見くんより僕の方が不良ですから(笑)。
邊見: そうですね(笑)。俺の方が全然ナイーブで(笑)。
白山: 邊見くんはいつまでたってもピュアだなと思いつつ、そんな彼に「それじゃダメなんじゃないの!?」とかって言ってる自分を振り返ると、汚れてるのは僕の方だな、って思いますよ(笑)。

PROFILE

邊見馨

1969年生まれ、東京都出身。古着やモーターサイクルなどアメリカンカルチャーに傾倒し、’90年代初頭にロンドンへ渡り、仲間と共に「TENDERLOIN」を設立。その後、青山にショップ「TIMEWORN CLOTHI NG」をオープンし、ワークウェアをルーツとする「AT LAST」、スポーツ、ミリタリーウェアをルーツとする「BUTCHER PRODUCTS」、ネクタイ、バンダナなどの服飾アクセサリー、そして「白山眼鏡店」と共同でつくられるメガネが属する「TIMEWORN CLOTHING」と、モノの派生別に複数のレーベルを構築し、日々モノづくりに励む。